マルカンビル
岩手県花巻市にある「マルカン百貨店」は6階に地元住民から愛される大食堂のある百貨店であったが、耐震性能不足と建物の老朽化のため2016年6月をもって閉店した。しかし、大食堂への地域住民の存続要望から地元の若手経営者が建物の運営を引き継ぎ、食堂の営業を再開。営業しながら耐震補強(6階での耐震スリット設置の短期間のみ休業)を行い、地元のまちづくり会社が自主運営、もしくはテナントを段階的に誘致しながら商業施設として復活を果たした。
【構造概要】
耐震補強は6階の食堂を営業しながら行うこと、また可能なかぎり工事費を圧縮した効率的な耐震補強が求められた。当初は1、2階の商業施設と6階の食堂のみで営業を継続する計画であったため、3~5階の平面中央部の床と鉄骨造の7、8階を撤去する徹底的な減築をし補強量を最小限とすることを提案したが、今後営業範囲の拡大の可能性が出てきたことなどの事情により補強計画を調整していった。
耐震補強前 耐震補強案(減築案)
階段室等で壁の多い平面の四隅に増打ち壁と増設壁を集約して補強効果と施工の効率化を図ると共に、費用対効果の高い部位について開口閉塞を適宜行い、閉塞に伴う防煙区画の見直しや避難安全検証法による排煙設備の免除等も合わせて検討した。
また、鉄骨の床が大部分となる7,8階はRC造の階段室コアとの接続部の床を補強することで一体化し、必要と見込まれていた鉄骨部の補強を不要としてコストを削減した。
耐震補強案(採用案) 3~5階補強計画
改修後のマルカンビルは、6階の大食堂は以前と同様に好調な営業を続けている。地下1階はスケートボードパーク、1階は地元の物販店舗、2階はおもちゃ美術館として段階的に営業を拡大して運営されており、かつての百貨店と異なるかたちで花巻の中心市街地の賑わいを支え続けている。
【データシート】
用途:百貨店
所在地:岩手県花巻市
意匠設計:らいおん建築事務所
構造設計:木下洋介構造計画
施工:伊藤組
階数:地上8階、地下1階
延床面積: 7,742m2
構造種別:鉄筋コンクリート造 一部鉄骨造
竣工:2020年3月(改修工事終了)
撮影:上町家守舎
【受賞・雑誌掲載】
▪鉄構技術 2023年8月号 VOL.36 NO.423 ( PDF )
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